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2007年03月 アーカイブ

2007年03月03日

尿が発する危険信号

 感染症の際,細菌の構成要素は,免疫系に対して危険警告を発し,免疫応答を開始させる信号として働いている。また,紫外線照射などにより障害を受けて死にかけているほ乳類細胞は,免疫系に対する危険信号物質を分泌して,樹状細胞の成熟を促しTリンパ球を活性化させることが分かっていたが,その物質は同定されていなかった。
  アメリカ,マサチューセッツ医科大学のヤン・シーらは,紫外線照射により障害を与えたマウスの培養細胞が分泌する物質を調べ,危険信号として尿酸を同定した。尿酸は樹状細胞の成熟を促した。マウスを用いた実験では,抗原と尿酸を同時投与するとCD8+T細胞の反応が明らかに高まり,また尿酸合成阻害剤と尿酸分解酵素を投与すると,障害をうけた細胞の投与により高まったT細胞の反応が特異的に抑えられた。また,培養細胞実験では,尿酸は尿酸ナトリウム結晶の状態のときに樹状細胞を活性化させることが明らかになった。
 尿酸は細胞障害と免疫を結びつける分子であり,ワクチン,自己免疫,感染症などにおいて重要な役割を果たすと博士らは考えている。

やはり大事なのは睡眠

睡眠によって学習記憶が強化される現象は広く見られる。しかし今まで,この睡眠効果は,その場で学習した事柄のみに限定されており,新しい状況下での同様の行動をうまくとれるように学習した技術を一般化する際については確かめられていなかった。
 アメリカ,シカゴ大学のキンベリー・M・フェンらは,コンピューターで合成した言語を聞き取らせる実験を行った。最初,合成言語は聞き取りにくく正確に聞き取れる率は低いが,繰り返し聞き取らせることによって正答率は上昇した。この時,同じ言葉は2度と聞かせなかった。つまり被験者は,学習した聞き取り技術の一般化を行ったと言える。1度の学習で正答率は約30%から50%へと20%上昇したが,再テストまでの間に12時間起きている時間をあけると上昇率は10%に半減した。しかしその12時間寝ていた場合,上昇率は20%のままで低下しなかった。さらに,学習後12時間起きていて1回目再テストを行い,その後12時間寝て2回目再テストを行うと,1回目再テストで低下した成績上昇率が,12時間睡眠によって2回目再テストでは回復していた。また,正答率と学習する時間帯との間に関連は見られなかった。
一般化を含めた学習において,睡眠は,記憶の固定を邪魔あるいは遅延から守る働きと,失われた記憶を回復させる働きの少なくとも2つの効能を持っているらしい。
 学習に関する脳の部位において,記憶の呈示と固定の改善と安定化が,睡眠中に行われているのではないかと博士らは考えている。

ネコもSARSに感染する

SARSに感染したネコは,一見無症状だが,体内でウイルス量を上昇させていた。

 重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因であるコロナウイルスの保菌動物は今のところ不明だが,フェレットとイエネコがSARSウイルスに対する感受性が強く,感染していないほかの動物と接触することで感染する可能性がある。
オランダ,エラスムス医療センターのバイロン博士らは,SARSで死亡した患者から分離したウイルスを培養細胞内で育てたものを,フェレットとイエネコの気管内に接種し,鼻汁や咽頭粘液などを採取してウイルス量を調べた。
 ネコは無症状だったがウイルス量は10日まで上昇しつづけた。フェレットは結膜炎をおこし,死亡した個体もいた。ウイルス量はネコと同様に上昇した。また,ウイルスを接種せずに感染動物と同じおりに入れたところ,ネコもフェレットもウイルス接種と同様のウイルス量上昇と症状を示した。
ネコとフェレットは,SARSの抗ウイルス薬やワクチンの効果を試す動物モデルになるだろう,と博士らはのべている。

プリオン病の新しい診断法に道

病原体プリオンの発生には脳内のRNA分子が関与しているらしいことが示された。

 プリオン病の病原体は,核酸をもたない特殊な感染型タンパクPrPscであり,これは正常組織に存在する糖タンパクPrPcが構造的に変化することによってできると考えられている。しかし,この変換を促進するPrPsc以外の細胞因子はこれまで同定されていなかった。
 正常脳組織をプリオン病感染脳組織と混合して培養すると,プロテアーゼ耐性PrPsc様タンパク質(PrPres)がつくられ,これにはプリオン病におけるPrPsc生成と共通の特徴が多くみられることがわかっている。アメリカ,ダートマウス医大のデレアウルト博士らの実験では,PrPresの生成は一本鎖RNA分解酵素によって阻害されたが,二本鎖RNA分解酵素やDNA分解酵素では阻害されなかった。
 現在,プリオン病に対するもっと感度のよい診断法の開発が必要とされているが,それには感染組織内に存在するPrPresを増加させて検出しやすくすることによって可能かもしれない。博士らは,ハムスターやマウスの脳のRNAを加えることによって脳組織のPrPres量が増えるが,微生物や昆虫などの無脊椎動物のRNAではそのような効果はないことも示した。博士らは,宿主がもつある特定なRNA分子がプリオンタンパクの生成に関与すること,またそのRNA添加によってプリオンタンパクを増加させることでより感度の高いプリオン検出法を開発できることを明らかにした。

マウスでプリオン病治療に成功

神経細胞内での病原体プリオン発生が,宿主に死をもたらすことが明らかにされた。

 プリオン病は,脳における広範な神経細胞の脱落,海綿状変性,病原性プリオンタンパク(PrPsc)の蓄積を特徴とする。PrPscは宿主があらかじめもっている正常プリオンタンパク(PrPc)の立体構造が変化した結果,神経毒性をもつようになったものだが,その毒性に関するメカニズムは不明だった。プリオン病に感染したマウスを使った実験では,PrPscの蓄積を阻害しても神経症状を抑える効果はないことがわかっている。
 イギリス,神経学研究所のマルッチ博士らは,プリオン病に感染させたマウスにPrPcの発現を阻害する酵素を投与することによって,初期段階の海綿状変性が元に戻り,神経脱落と症状の進行が抑えられ,死亡を免れさせることに成功した。しかし,このマウスの脳における神経細胞外のPrPsc蓄積レベルは,プリオン病に感染して死亡した無処置マウスと同程度に高かった。
 すなわち,神経細胞外のPrPscに毒性はなく,毒性をもつためには神経細胞内におけるPrPcからPrPscへの変換が必要であり,PrPc発現の阻害によりそれを阻止することによってプリオン病の進行を抑えることができたと博士らは考えている。

コレステロールに次ぐ「悪玉」

アテローム性動脈硬化において中心的役割を果たす化合物「アテロナール」が発見された。

 コレステロールはアテローム性動脈硬化を起こす血栓の原因となるが,血栓形成は血管壁の炎症によって助長されると考えられている。
 アメリカ,スクリップス研究所のウェントウォースJr.博士らは,外科手術で切除されたアテローム性動脈硬化組織15例を調べ,これらの組織はコレステロールがオゾンによって酸化された時に特有の化合物を含んでいることを示した。さらに,これらの組織に白血球活性剤を加えるとオゾンを生成することも分かった。この化合物とコレステロールを同時にマクロファージに加えると,マクロファージ内に脂肪滴が沈着したが,コレステロール単独ではそのような現象はおきなかった。
 博士らは,この化合物を「アテロナール」と命名した。血栓において炎症細胞から生じたオゾンがコレステロールを酸化してできたアテロナールが,細胞障害,マクロファージへの脂肪滴沈着,アポリポタンパクB-100の二次構造の崩壊といったアテローム性動脈硬化の病態に関して中心的な役割を果たしていると博士らは考えている

消化管がんの進行を止めるには

食道,胃,膵臓,大腸などにおけるがん組織の成長には,ヘッジホッグシグナルの活性が必要であることがわかった。

 ヘッジホッグタンパク(Hh)は,多くの生物における細胞成長に関わっている。Hhが細胞外に分泌され,リガンドとして近くの細胞の表面にある受容体に結合すると,受容体はシグナルタンパクを細胞内に分泌し遺伝子を活性化させる。特発性および家族性の遺伝子変異によるヘッジホッグシグナル過程の活性化が,さまざまな腫瘍の形成に関与することがすでにわかっている。
 アメリカ,ジョンズホプキンス医科大のベルマン博士らは,ヒトの食道,胃,胆管,膵臓および大腸のがん組織を調べ,いずれもHhリガンドが過剰に発現していること,Hhによって活性化される標的遺伝子の活性が大腸以外のガン組織で高まっていること,またこの活性作用は細胞内シグナルタンパクの阻害薬シクロパミンによって抑えられることがわかった。さらにシクロパミンは,培養したがん細胞の増殖を抑え,マウスの皮下に移植したヒトのがん組織の大きさを縮小させることがわかった。培養細胞実験では,リガンドと受容体の結合を阻害するHh中和抗体を加えるとHhのシグナル作用やがん細胞の増殖が抑えられ,Hhリガンドタンパクを加えるとがん細胞増殖が促進された。
 博士らによれば,これらの消化器官のがんにおける細胞増殖やHhシグナル過程は,遺伝子変異ではなく,Hhリガンドの発現によって制御されているらしい。


C型肝炎の特効薬

ウイルスの複製にかかわる分解酵素のはたらきを阻害する新薬が開発された。

 C型肝炎ウイルス(HCV)は重い慢性肝炎を引きおこし,世界中で1億7000万人以上の感染者がいるといわれている。そのHCVがもつNS3タンパク分解酵素は,ウイルス複製に中心的な役割を果たすことで知られ,HCV治療の有望な標的と長い間考えられてきた。
 カナダ,ベーリンガーインハイムのラマーレ博士らは,NS3タンパク分解酵素に対する特異的で強力な阻害薬を開発し,その安全性と有効性を臨床実験によって証明した。HCV感染患者にこの薬剤を経口投与したところ,血中のウイルス量は急激に著しく減少した。しかし,投与終了後にウイルス量は数日で元にもどった。また,健康な人に経口投与しても,副作用はあらわれなかった。これにより,NS3タンパク分解酵素阻害薬は,ヒトにおいて強い抗HCV作用をもつことが明らかになった。
 新薬の作用に持続性をもたせることができれば,HCV感染症治療の大きな進歩となる,と博士らはのべている。

結束する雌たち

サバンナヒヒの集団では,雌の結束力が高いほど,子供の生存率が高いらしい。

 ヒト以外の霊長類の多くで,雌は雌同士で強い結束力をもった集団を作ることが知られている。この関係は雌の適応力を高めると考えられてきたが,社会性が適応力に与える直接的な影響は検証されていなかった。
 アメリカ,カリフォルニア大学のシルク博士らは,ケニアの野生サバンナヒヒの行動を16年間にわたり観察した。サバンナヒヒは雄雌混成の大集団で生活し,雌は自分の生まれた群れに一生涯とどまるが,雄は成熟すると他の群れに移住する。雌の集団内での順位は決まっており,雌同士は互いに体をくっつけあい,毛づくろいしあい,助け合っている。
 博士らは群れの中での成熟雌同士の結束力を,個体間の距離の近さと毛づくろいしあう頻度によって数値化した。また,各雌の子供が1歳になるまでの生存率を調べたところ,雌同士の結束力が高いほど子供の生存率が高い傾向が見られた。この影響は,雌の集団内での順位や生活環境に左右されなかった。その理由についてはまだ明らかではないが,雌同士の結びつきがストレスによる悪影響を軽減する,あるいは外敵から身を守ったり,よいエサを得るなどの直接的な恩恵にあずかることなどが考えられる。

リュウマチ性関節炎の原因の一つ?

ZAP-70遺伝子に変異があるとシグナル量が減り,自己抗体に過剰に反応するT細胞が選択されるらしい。

 世界人口の1%の人が罹っているリュウマチ性関節炎は,全身の関節の滑膜における慢性炎症である。CD4+T細胞がその発症に関与するらしいが,その詳しいメカニズムは不明である。
 京都大学の坂口博士らは,T細胞のシグナル変換分子であるZAP-70タンパクのSH2という部位の遺伝子に1か所の突然変異が起きているマウスが,ヒトのリュウマチ性関節炎とあらゆる面でよく似た慢性の自己免疫性関節炎を起こすことを明らかにした。このマウスにヒトの正常なZAP-70遺伝子を組み込むと関節炎は起きなかった。また,胸腺細胞とT細胞を調べると,ZAP-70を含む4種の主要なシグナル変換分子のチロシンリン酸化や,カルシウムイオンの流入,細胞増殖やアポトーシスが抑制されていた。
 胸腺においてどのT細胞を生成するかの選択に関しては,ZAP-70を通したある一定量のシグナルが必要である。博士らは,ZAP-70遺伝子に変異があるとシグナル量が減り,T細胞選択に関する閾値が変化すると考えている。その結果,正常ならありえないような自己抗体に過剰に反応するT細胞が選択されたのだという。このような遺伝子変異による胸腺のT細胞選択の異常は,一部のリュウマチ性関節炎患者の症状の進行にも深く関与するだろうと博士らはのべている。

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