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2007年04月 アーカイブ

2007年04月29日

ウイルスの複製をとめる

エイズウイルス(HIV-1)は,静止状態と増殖中のいずれのリンパ球にも感染するが,静止状態の場合はほとんど複製がおきないことが知られている。しかし,その理由は不明だった。
 アメリカ,ワクチン研究センターのガネシュ博士らは培養細胞を用いた実験で,「Murr1」とよばれるタンパク質がHIV-1の増殖を抑制していることを発見した。今回博士らは静止状態のときのリンパ球内部を観察して,Murr1が細胞の遺伝子情報を複製する「転写因子(NF)-kβ」と結合していることをつきとめた。博士らによれば,これによって(NF)-kβの活性化が阻害され,HIV-1の増殖が抑制されているらしい。また,健康な人から採取した細胞を調べると,Murr1を確認できた。このMurr1を抑制するとHIV-1の複製が促進することも明らかとなった。
 この発見は,無症状のHIV-1感染者やエイズ患者の病状進行のコントロールに重要な意味をもつであろう,と博士らはのべている。

がん細胞の増殖も阻止するP53タンパクの活性化理由

P53タンパクは、低酸素濃度、熱ショック、DNA傷害などの細胞が受けるストレスに反応して細胞内のP53レベルが急上昇して活性化し、細胞周期の停止や細胞死を起こして、ストレスを受けている細胞の増殖を阻止する。この働きはガン細胞の増殖を阻止するのにも役立っている。P53を活性化する細胞ストレスは様々なので、その活性化を調節する過程をひとつのタンパクにまとめて説明するのは難しいが、EMBO Journal に発表されたルビとミルナーの論文によるとそれが可能かもしれないと、イギリスのベアトソンがん研究所の博士らはのべている。
 ルビとミルナーによると、全ての細胞ストレスシグナルは、核仁を破壊することによってP53を活性化するらしい。核仁は、細胞内のタンパク合成の場であるリボゾームのサブユニットを組み立てるのに重要な役割を果たす核内構造物である。ルビとミルナーは、P53を活性化するシグナルは同時に核仁を破壊すること、DNA障害を起こすが核仁は破壊されないように核の一部だけに紫外線を照射するとP53は活性化しないこと、逆にDNA障害は起こさずに核仁が破壊されるような抗体を投与するとP53は活性化することを示した。
 ルビとミルナーによると、核から細胞質へリボゾームのサブユニットが運ばれる時と同じメカニズムが、P53の輸送にも使われる。核仁が破壊されると、P53が輸送されなくなった結果、細胞内に蓄積するらしい。また別の可能性として、核仁の破壊によってある特定の核仁タンパクが核内に放出された結果P53が活性化されることも考えられている。

光刺激からの回復が遅い患者には,遺伝子の突然変異

RGSタンパクは、細胞内の様々なシグナル伝達経路におけるGタンパクの不活化を促すGTPアーゼを活性化する。そのうちのRGP9は、網膜の桿状体と錐体の光伝達経路におけるGタンパクを不活化する働きを持つ。RGS9を光受容体の膜につなぎとめるR9AP(RGS9アンカータンパク)は、RGS9の活性を70倍にも高めることが出来る。
 アメリカ,ハーバード医科大学のニシグチ博士らは、暗いところから急に明るいところへ出た時、あるいはその逆の時に10秒間ほど目が見えなくなるという患者5人の遺伝子を調べた。そのうち4人にはRGS9遺伝子の同部位に同じ点突然変異が、また1人にはR9AP遺伝子に1箇所の変異が見られた。ここで同定されたRGS9遺伝子変異部位は、RGS9の疎水性コアの中心部にあり、この変異によりRGS9のGTPアーゼ活性化作用が低下していた。この患者らに対して、背景が白いコンピュータースクリーンに静止あるいは横方向に動く黒文字を強弱2通りのコントラストで呈示するテストを行ったところ、静止文字は正常に識別できたが、動いている文字、特にコントラストの弱い文字を識別する能力が低かった。さらにフラッシュを2回連続して呈示し、それらの間隔を様々に変えると、健康な人は2秒間空けると2度目のフラッシュに反応したが患者は1分間空けないと反応できなかった。

幹細胞から,始源生殖細胞と精子細胞をつくることに成功した

マウスの卵細胞と精子細胞は、胚発生の初期段階で体細胞と別れた始原生殖細胞群から分化したものである。始原生殖細胞は、初期胚の卵黄のうの血管系を形成する部位でもある近位原外胚葉由来である。培養実験において、胚の幹細胞は、初期胚に典型的な組織配列を備えた「胚様体」と呼ばれる袋状構造物に分化する。
 アメリカ,ホワイトヘッド生物医学研究所のゲイジュセン博士らは、生殖細胞に特有の遺伝子群の発現や細胞表面抗原、また培養液にレチノイン酸を加えると体細胞では分化が促されるが生殖細胞では増殖が促されるといったことを手がかりに、胚様体から始原生殖細胞を選んで分離した。さらに始原生殖細胞の特徴として、培養日数を経るに従って、Igf2r遺伝子とH19遺伝子上のある特定の部位のメチル化が失われることを示した。博士らはこの始原生殖細胞が、減数分裂を行って一倍体の精子細胞へと成熟することを示した。そのような細胞を卵細胞に注入すると、受精して、二倍体の染色体を形成して何度か卵分割を行うことがわかった。
 このように幹細胞から生殖細胞を分離する方法により、生殖発生の研究に有用な培養細胞モデルが作れると博士らは述べている。

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