ZAP-70遺伝子に変異があるとシグナル量が減り,自己抗体に過剰に反応するT細胞が選択されるらしい。
世界人口の1%の人が罹っているリュウマチ性関節炎は,全身の関節の滑膜における慢性炎症である。CD4+T細胞がその発症に関与するらしいが,その詳しいメカニズムは不明である。
京都大学の坂口博士らは,T細胞のシグナル変換分子であるZAP-70タンパクのSH2という部位の遺伝子に1か所の突然変異が起きているマウスが,ヒトのリュウマチ性関節炎とあらゆる面でよく似た慢性の自己免疫性関節炎を起こすことを明らかにした。このマウスにヒトの正常なZAP-70遺伝子を組み込むと関節炎は起きなかった。また,胸腺細胞とT細胞を調べると,ZAP-70を含む4種の主要なシグナル変換分子のチロシンリン酸化や,カルシウムイオンの流入,細胞増殖やアポトーシスが抑制されていた。
胸腺においてどのT細胞を生成するかの選択に関しては,ZAP-70を通したある一定量のシグナルが必要である。博士らは,ZAP-70遺伝子に変異があるとシグナル量が減り,T細胞選択に関する閾値が変化すると考えている。その結果,正常ならありえないような自己抗体に過剰に反応するT細胞が選択されたのだという。このような遺伝子変異による胸腺のT細胞選択の異常は,一部のリュウマチ性関節炎患者の症状の進行にも深く関与するだろうと博士らはのべている。